洋菓子店員の恋-7-2015.10.23 23:14 ショーケースには、夢のような輝きが詰まっている。 透き通ったゼラチンに沈む、色とりどりのガラス細工のようなフルーツ。 白い陶器のように眩しい生クリームと、その上で澄まし顔をする苺の、ハッとするほど鮮やかな赤。 眩暈を誘うほど濃厚な、甘い甘い香り。 洋菓子店員になり、俺は知ってし...
洋菓子店員の恋-6-2015.10.23 23:11「ありがとうございました、お気をつけてお持ちください」 小さな女の子を連れた若い母親が店を出て行くと、俺はレジ周りを片付けながら、ちらりと時計を見上げた。 夕方の6時を過ぎたところだ。 レジ横の卓上カレンダーと、手元に一枚だけ残った注文票を見比べる。 日付と曜日。間違いなく今日の...
洋菓子店員の恋-5-2015.10.23 22:54 ドアをくぐってみると、実際の部屋は写真で見た印象よりずっと狭く、薄暗く感じられた。 やたら大きなベッドがほとんどのスペースを占めている。 他にあるものと言えば、二人で座るには狭すぎるソファと小さなローテーブル、金庫みたいな小型冷蔵庫、そして――ガラス張りの風呂。「……」 ガラス...
洋菓子店員の恋-4-2015.10.23 22:26 メイン通りを左に折れると、駅に続くアーケード商店街に入る。 この時間帯は駅からこちらに向かって来る人の流れの方が多いので、逆流する俺たちは出来るだけ道の端を進んだ。 すでに営業時間を終えてシャッターを下ろした店も多い中、飲食店やカラオケ店だけは盛況だった。 居酒屋の前では、酔っ...
洋菓子店員の恋-3-2015.10.23 22:17 狭い更衣室で着替えを済ませ、リュックを背負いながら事務室に顔を出すと、副店長の羽田さんがテーブルの上で書きものをしていた。 真剣だった表情が、俺の顔を見てふっと柔らかくなる。「お疲れさま」「お疲れ様です」「今日は店番一人で大変だったね」「いえ、色々とフォローありがとうございまし...
洋菓子店員の恋-2-2015.10.23 21:25 ――まあ、速攻で失恋したわけだけど、マジになる前に彼氏付きだって知れたからよかったのかもな。 おかげでショックが最小限で済んだし。 俺は立ち上がり、ショーケースの上を乾いたダスターで磨き始めた。 大丈夫。これは一時的な感情だ。 幸いなことに、俺は望みがないと分かっている恋にしが...
「恋衣神社で待ちあわせ/番外編」2015.10.23 14:27~ギター少年と牡蠣グラタン~ どうにもいけ好かない奴だと、ずっと思っていた。 校則違反のふわふわした茶髪。かかとの潰れた上履き。授業中、退屈そうに頬杖をついた横顔。 いつも自然とクラスの輪の中にいて、基本的にヘラヘラしてて、誰にも物怖じしなくて、どこまでもマイペースで。 そのくせ...
洋菓子店員の恋-1-2015.10.03 03:48ープロローグー ショーケースの中には、夢のような輝きが詰まっている。 透き通ったゼラチンに沈む、色とりどりのガラス䵷軸のようなフルーツ。 白い陶器のようにしっとりとした生クリームと、その上で澄まし顔をする苺のハッとするほど鮮やかな赤色。 眩暈を誘う濃厚な、甘い甘い香りに満たされた...